桑港日本刀協会
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ヤクザの青沼君

 青沼君は中学二年生の時の同級生で、歳は私より二つ上でした。その時は私が14歳で、青沼君は16歳でした。少年鑑別所に2年ほど入ってから戻り、本当は 高校一年でなくてはいけなかったのです。しかし、なんかの悪さをしでかして捕まっていました。
 1966年の春に二年二組に編入されて来ました。担任の先生が「新入生の青沼澄夫君です」と紹介したのを覚えています。勉強はすごくできましたが、放課後は机の上にひっくり返って、いつもタバコを吸っていました。体操クラブに席をおき、マットの上で体操をがんばっている青沼君をテニスコートの隣から見えました。
 ある時、誰かが校長先生にタバコの件を告げ口したので、青沼君は滅茶苦茶怒ってやたらかまわず同級生に暴力を振っていました。私は、空手を習っていたので青沼君より強く犠牲者にはならなかったです。エレキギターの練習を一回か二回したのを覚えています。ギターを弾くのはすごく下手でした。やがて中学を卒業し、青沼君はどこかの商業高校に入り、しばらくしてチンピラになり、どこかのヤクザの組に入ったそうです。
 1996年9月、日本刀の勉強と修理修繕を習うために訪日しました。東京にある刀鍛冶の師匠宅を出て、川崎の家に帰る途中、渋谷より東横線に乗り武蔵小杉の駅で電車は止まりました。南武線との乗り換え駅ですのですごく混んでいました。乗車して来るたくさんの人びとの後ろの方から、前の人間をなぎ倒すように周りの人びとをぐいぐいと押しのけてくるチビの中高年のオッサンが突っ込んでくるのが見えました。嫌がる女性や大学生もないがしろにし、ジャンジャン人びとを横に押しのけ、突き倒している憎っくき中高年のオッサンでした。私は巻き藁で常時鍛えている鉄拳を構えて、そのオッサンの顔をぐちゃぐちゃに潰してから、飛び膝蹴りを入れて、正面蹴りか足刀蹴りで床に蹴倒してやろうと待っていました。なんとそのオッサンは、30年前に一緒に中学校で暴れていた金縁メガネの青沼君だったのです。
 私の真ん前に立ちはだかった彼に「あんた知ってるよ」と言うと、きょとんとしていたので「勉強家で野心家の青沼君ではないかい?」とおちょくると、向こうもびっくりして「俺のこと知ってるの?誰だっけ?教えて。教えて」と言い寄って参りました。それに答えるようにして青沼君に言ってやりました。「もう覚えていないでしょうが、アメリカのサンフランシスコに留学し、中学校二年生時の同級生だった男です」と言うと、まだわからない顔をしていました。周りの人びとも私達の会話を聞くような体裁になったので、私は右の人差し指を自分の頬に当てて、引きおろして切るような格好をしながら「コノ家業まだ続けてやっているの?」と青沼君にたずねると、周りの人びとは、ぞーっとした様子ですごくビビッていました。
 そうです。そうです。最近のヤクザ家業は実にシンドイそうです。警察がいつも見張っていて、ちょっとしたことでも直ぐに捕まるそうです。組員が刑務所にジャンジャン入れられ、だんだん仲間が少なくなっていくそうです。ヤクザ家業はもうやっちゃいられんので、あっさりとやめたと言ってました。中小企業の会社勤めをしているそうです。私もアメリカでの職業を聞かれたので彼に言いました。「矯正歯科医に勤めている歯科技工士です。自分個人の道場をかまえて、空手と剣術の先生もしています。刀鍛治の弟子になって日本で修業中であります」とも言いました。サンフランシスコには日本刀修理修繕所も構えていて、ものすごく儲かる日本刀の売買もしているんです。
 それからずっと次の駅の元住吉まで笑いながら昔話しをして、30年前の懐かしい中学校の頃の話に花が咲いたのです。元住吉の駅を降りたところでやっと私のことを思い出してくれました。数学と英語がめちゃくちゃできた優等生の星野君だねと。駅前の道を2キロぐらい歩いてから、青沼君は右に曲がり、昔昔に私達が通っていた中学校の方面に歩いて行きました。青沼君の家が中学校の近くだったのを思い出しました。私は左に曲がり大正橋の近くの我が家のある方向へ歩いて行ったのです。
 それ以来青沼君には会ったことはなく、最近は訪日もしていないのでもう会えないでしょう。
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